すっとんきょうでゴメンナサイ

風の吹くまま気の向くまま

「永遠のおでかけ」


大好きな 益田ミリさんのエッセイ集です。


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帯には
「大切な人の死」で知る悲しみとその先にある未来
誰もが自分の人生を生きている
とありました。

お父様を亡くされたミリさんの心の情景が
リアルに
時にユーモラスに綴られています。
いつも通りの
率直で
それでいて温かくしみじみと沁みる文体で。
お父様との想い出が
20のタイトルを持つエッセイの
あちらこちらに散りばめられていて
ミリさんのお父様への深い思慕を感じさせられました。


先日、原因不明の高熱で入院した父を見舞いに行ってきたばかり。
病院のベッドの上で、更にか細くなっていた父。
それでも、私の顔を見て元気になっとると兄が言いました。
長居が出来ず、「また来るね」と大きな声で別れながら
こうしてもう会えないこともあるのかも、と覚悟しましたが
その後、父は無事退院することができました。

そんな時にこの本を読んだのです。
父はまだ亡くなったわけではないのに
なんだかすべてが実感を伴い迫ってくるようで
何度も胸が苦しくなり、涙が流れました。


 心の中に穴があくという比喩があるが、父の死によって、わたしの心の中にも穴があいたようだった。それは大きいものではなく、自分ひとりがするりと降りていけるほどの穴である。のぞいても底は見えず、深さもわからない。
 しばらくは、その穴の前に立っただけで悲しいのである。それは思い出の穴だった。穴のまわりに侵入防止の柵があり、とても中には入って行かれなかった。
 けれども、しばらくすると、侵入防止柵を越え、穴の中のはしごを降りることができる。
 あんなこともあった、こんなこともあった。一段一段降りながら、懐かしみ、あるいは、後悔する。
 涙が込み上げてくる手前で急いで階段を上がる。その繰り返しとともに、少しずつ深く降りて、しばらく穴の中でじっとしていられるようになっている。
 「あのときのお父さんは、やっぱり許せん!」
などと腹を立てることすらあるのだった。

20.「ハロウィンの夜」より



「大切な人の死」を考えると恐ろしく
訪れる悲しみを思うと不安で仕方なくなるけれど
それでも、
それに向き合う勇気
そして乗り越える未来を
ミリさんのこの本が教えてくれたように思うのです。