すっとんきょうでゴメンナサイ

風の吹くまま気の向くまま

陽水の音楽は古くならない~「井上陽水50周年特番」


昨夜のNHK井上陽水50周年特番」

放送時間正味75分で井上陽水の世界を十分に堪能出来るのか
大抵の場合、アーティストの特集と言っても物足りない感が残ることがあるのだけど
観る前の予想を超えて、まったりゆったり彼そのものの75分間を十二分に楽しんだ。
考えたら一人のアーティストに焦点を合わせた特番って50分とか1時間であることが多いかも。
井上陽水に75分かけるNHKの意気込みも嬉しかった。(なんだか上から目線?
ふわふわっと漂うように流れる75分間の、けれど長さを感じさせない内容に
観終わったあと、ちょっと驚いたくらい。
それはやはり陽水氏のパフォーマンスと楽曲の素晴らしさゆえに尽きると思う。
歌った曲の数で言えば彼の歌の中のほんのほんの少し。
だけど、一つ一つの楽曲の完成度が素晴らしく、今さらながら深く心の中に届くし
何と言っても唯一無二のキャラクターと歌唱力が圧巻で、今さらながら凄いなぁと思わされた。

番組には陽水氏ゆかりのゲストが出演しコメントしていた。
その中の一人、リリー・フランキーさんが言っていたこと。

彼の音楽は古くならない

確かに、だ。

「傘がない」(1972)、「氷の世界」(1973)、「闇夜の国から」(1974)
番組の中で歌った初期の楽曲だが、全く古くない。
というか、逆にめちゃくちゃカッコイイ。

6年前の夏、あるフェスに行き、久しぶり(35年ぶり?!)に彼の歌を生で聞いた。
ゲスト出演だったので「氷の世界」と「少年時代」2曲だけだったが
「氷の世界」ではそのド迫力に私と同世代のみならず若者たちもヒートアップ。
自分も熱くなりながら叫んだ。
次の年、“氷の世界ツアー2014”ではタイトル通り、アルバム『氷の世界』を全編聴かせてくれて
そのカッコ良さに全身鳥肌ものだった。

もちろん、アレンジなどは新しくしているはず。
陽水氏の歌い方も変遷している。
だけどそれだけじゃなく、
楽曲そのものが時代に左右されない独自のスタイルを持っているから古びないのだと思う。
摩訶不思議な歌詞に「?」と言われることもあったと思うが
今、時代が陽水の世界に追いついてきたようにも思える。
加えて、彼の紡ぎ出す美しい旋律は、摩訶不思議な言葉をのせてもある意味普遍である。
そして、
米須玄師くんにも引けを取らない歌唱力。
今となってもほとばしる瑞々しさで心に響き
昔、夢中で聴いていた世代として誇らしいほどだ。


やはり番組中で歌った「最後のニュース」
1989年に放送開始された故筑紫哲也さんの報道番組のエンディングテーマで
親交があった筑紫さんからのオファーで書き下ろしたものである。
何度も耳にはしていたが、歌詞を正確に知ったのは今回テレビ画面に映ったテロップで。


闇に沈む月の裏の顔をあばき
青い砂や石をどこへ運び去ったの
忘れられぬ人が銃で撃たれ倒れ
みんな泣いたあとで誰を忘れ去ったの

飛行船が赤く空に燃え上がって
のどかだった空はあれが最後だったの
地球上に人があふれだして
海の先の先へこぼれ落ちてしまうの

今あなたにGood-Night
ただ あなたにGood-Bye

暑い国の象や広い海の鯨
滅びゆくかどうか誰が調べるの
原子力と水と石油達の為に
私達は何をしてあげられるの

薬漬けにされて治るあてをなくし
痩せた体合わせどんな恋をしているの
地球上のサンソ、チッソフロンガス
森の花の園にどんな風を送ってるの

今あなたにGood-Night
ただ あなたにGood-Bye

機関銃の弾を体中に巻いて
ケモノ達の中で誰に手紙を書いてるの
眠りかけた男達の夢の外で
目覚めかけた女達は何を夢見るの

親の愛を知らぬ子供達の歌を
声のしない歌を誰が聞いてくれるの
世界中の国の人と愛と金が
入り乱れていつか混ざりあえるの

今あなたにGood-Night
ただ あなたにGood-Bye

詩・曲 井上陽水


謎かけのような言葉たちが強烈な実感として迫り
やるせなさで息苦しくなる。
1989年に書かれたものだが、あまりにも今の現実であることに驚く。

彼の音楽は古くならない


最後に歌った「枕詞」
1976年にリリースされたアルバム『招待状のないショー』に収録されている。
特に好きな曲の中の一つで、当時のことが思い出され感涙。

自分にとって一番しんどかった時代。
意味があるような無いような、言葉遊びをあちらこちらに飛ばす曲が多い中で
シンプルな歌詞に無性に励まされたものだ。


浅き夢 淡き恋
遠き道 青き空

今日をかけめぐるも
立ち止るも
青き 青き空の下の出来事

「枕詞」より