すっとんきょうでゴメンナサイ

風の吹くまま気の向くまま

『小さいおうち』

 
映画小さいおうち』観ました。
 

 
 
2010年直木賞の、中島京子さん『小さいおうち』が原作です。
監督は 山田洋次さん。
男はつらいよ』シリーズ、『幸福の黄色いハンカチ』『学校』『母べえ』『おとうと』など
彼の作品は今までにもたくさん観ました。
おかしくてかなしい、
かなしくてあたたかい、
いつもそうした余韻が心の中に残りました。
 
※封切りしたばかりなのですが、『小さいおうち』の公式サイトなどですでに告知されている内容を少し紹介させていただきたいと思います。それも知りたくないと思われる方はどうぞご注意くださいますように。
 
 
「長い監督人生の中で“家族の絆”を描き続けてきた山田監督が、今作で初めて“家族の秘密”に迫る」
と公式サイトにあります。
そして、
「この作品は、東京郊外のモダンな家で起きた、ある恋愛事件の秘密を巡る物語が核にあるけれども、そのストーリーの向こうに当時の小市民家庭の暮らし、戦前から敗戦の時代を描きつつ、更にはその先に、果たして今の日本がどこへ向かっていくのか、というようなことも見えてくる作品にしたい」
と山田監督は語られています。
そうした映画でした。
 
原作とは登場人物の設定やストーリーの展開などに少し違いがあるようですが、
昭和の初め、懐かしく美しい“昭和モダン”の時代を大切に描こうとする監督の思いは原作者と同じであり、
それを文章とは別の形、映像で魅せてくれていることがしっかりと伝わりました。
 
作品の象徴とも言える「小さいおうち」。
赤い大きな屋根の洋館風の外観や応接間、居間、キッチン、玄関などの各部屋、それから家具や小道具も。
細かな所にまで神経を行き届かせ、こだわりながら作り込まれています。
又、「小さなおうち」に住まう人間たちの暮らしも実に丁寧に描かれていて、
当時を知らない私でも、その息づかいをリアルに感じることが出来るようでした。
 
中でも特に心惹かれたのは “女中さん” の存在感。
電気製品の無かった時代に膨大な家事仕事をこなすことは主婦にとって大変な労働であり、
当時、中流以上の家に女中さんを置くことはそれほど特別なことではなかったようです。
確か差別的だとか何とかで、今では“お手伝いさん”と呼ばれるようになった“女中”という職業。
その“女中”の善し悪しで家庭がうまくいくかいかないか左右するのだと、劇中のセリフにあります。
あ・うんの呼吸で差し出し、受け取る。
微かな目配せで意思を察する。
必要な時には必ず其処に居て、不要な時には決して其処に居ない。
ご主人様を陰から支える流れるような技はあたかも忍術のようで、
家事仕事そのものの能力の他に、読心術さながらの察知能力や気配り。
確かに、人としての才覚が大いに求められる職業であったのだと、改めて感心させられました。
 
 
 
「小さいおうち」で起こる家族の物語の背景に戦争へと大きく舵を取る時代が映し出されていきます。
遠いところからゆっくりと。
しかし、気がつけばすぐそこまで来ていた戦争。
「果たして今の日本がどこへ向かっていくのか、というようなことも見えてくる作品にしたい」
そう語られた山田洋次監督は何を見せてくれようとしたのか、と考えます。
 
たまたま、朝ドラ『ごちそうさん』も、今、物語は戦争へと突き進む時代。
慎ましいながらも心豊かに、穏やかに日々の暮らしを営んでいた人たちが
いつの間にか、あっという間に、戦争の渦の中に巻き込まれていきます。
身近にいた大切な人たち、身近にあった愛しいものたちがある日唐突に奪われていく現実が、ここでも描かれています。
 
実際はどうだったのだろうと想像するのです。
その時、その場にいなかった私には想像することしかできません。
けれど、
知らず知らずのうちに、我が身のすぐそばに迫っていることの恐怖。
もはやなすすべもなく、世の中の流れに組み込まれていくことの脅威。
それを想像すると怖い。
みぞおちのあたりがさわさわしてきます。
 
・・・・・
 
悪いように考え過ぎだ。
そう思うことで不安を振り払うことが多くなりました。
子どもたちの行く先は大丈夫なのだろうか・・・。
そんなことも思い過ごしであって欲しいです。