すっとんきょうでゴメンナサイ

風の吹くまま気の向くまま

母と鼻歌

 
朝ドラ『とと姉ちゃん』で。
主人公の母親は大店のお嬢様育ち。
礼儀作法をわきまえたおしとやかな人である。
だから、とてもそんなことをしそうではないのに
何か心配事があると唐突に鼻歌を歌い出す。
それもちょいと明るめの。
娘たちはそんな母の鼻歌を聴くと
「お母さま、何かあったのかしら・・」と不安に思うのだ。
 
それで、ふと思い出した。
 
母もよく鼻歌を歌っていた。
お嬢様育ちではあったようだが、決しておしとやかではなく
大口を開けて傍にいる者を叩きながら笑うような人。
だから、鼻歌ぐらい歌っちゃうのだが
それにしても本当によく歌っていた。
料理をしながら、洗濯物を干しながら畳みながら、片付けをしながら
歌い始めるとエンドレスだった。
子どもだった私がある時、どうしてそんなに歌うのか訊いてみると
「歌うと楽しくなるのよ」と笑顔を見せながら答えた母。
そりゃモットモと思った。
明るく楽天的な母らしいと思ったのを憶えている。
 
でも、
 
それで又、ふと思ったのだが
あの頃の母にも、不安や心配事がやっぱりあったのかなぁと。
だから、
鼻歌を歌うことで自分の心を楽しく弾ませ
暗い気持ちを振り払おうとしていたのかなぁと。
 
母の鼻歌は唱歌が多かった。
「埴生の宿」「里の秋」など。
生まれたところを遠く離れ、親や兄弟とも滅多に逢えず
子どもの頃の懐かしい歌の中に身を置くことで、故郷や親の温もりを感じていたのだろうか。
ネガティブの欠片も無いような母だが、心細さや寂しさと精一杯闘っていたのかもしれない。
 
 
 
余談だが、
気づくと私も鼻歌歌いになっている。
特に、義母の家では頻繁である。
思うようにならない苛立ちか、嫁に対する腹立ちか
不機嫌であることの多い義母に
初めの頃は「どうしたの?」「どうしたいの?」と心配し続けたが
さして理由は無く、あるのかもしれないが言ってくれるわけでもなく
向き合うことにすっかり疲弊してしまった私。
ある時から必要以上に気にしないようにした。
と言っても気になる・・・。
そんな時に、お茶碗洗いながら歌うのだ。
洗濯しながら歌うのだ。
掃除機かけながら歌っちゃうのである。
すると、なんと気の晴れること。
気にしないでいいことを心の中から追い出せる。
 
因みに、私の場合
鼻歌になるのはまったくジャンルを問わない。
古いものから新しいものまで。
選ぶでもなく降りてくる。
 
以前、
中島みゆきさんの「ひとり上手」がエンドレス鼻歌になったことがあるが
なんと言うか、
あの軽妙な旋律がなかなかどうしてはまるのだった。