ここ数年、年に一度の市の特定健診を市内の病院や診療所で受けている。
夫が働いていた時は会社の福利厚生で私も人間ドックを受けられたが、リタイアしてからは高額な費用を惜しんで、無料の健診と市のがん検診に移行した。
人間ドックと全く同じとはいかないが、主なものは網羅している健診・検査内容であるし、何よりがん検診の費用が格安なので、十分満足している。
そういうわけで、30年近く毎年体のチェックをしてきた。
直近では昨年の12月。地元の小規模な診療所で特定健診とがん検診を済ませた。
その診療所の患者は地元の高齢者が多い様子で、その為かスタッフが皆親切で丁寧。
高齢者の不安をゆっくりと穏やかに聞き取ってあげていて、心が和む。(他人事の様に言っているがもちろん私も高齢者の一人)
総合病院の様にひどく混んで待たされることが少ないのも気に入り、3年続けてこの診療所で健診を受けている。
年が明けて今年2月、健診結果を聞きに行った。
今までの2回は他の病院から来ている若い医師が結果を説明してくれていたが、今回は診療所長のベテラン医師。(敬意を込めて大先生と呼ぶ)
血液検査、尿検査、胃・肺・大腸のがん検診など、特に問題は無かったが、もう20年来、毎回指摘されるのが心電図の低電位で、今回もそうだった。
ただ、人間ドックでも今までの特定健診でも「様子を見ましょう」と言われ、気にしないままずっと来た。
(激しい運動をしている人によくみられる、いわゆるスポーツ心臓とも言われ、バドミントンを熱心にやっていたのでそういうものかと)
ところが今回、大先生は「循環器専門の医師に診てもらうことをお勧めします」と仰る。
これまでと違う診断に戸惑いあまり乗り気じゃない私の様子を察してか、もう一度、こちらの目をじっと見て繰り返す大先生。
週に一度、診療所に循環器科の医師が診療に来ると言うので、その圧に押されるように診察の予約をした。
3月、循環器科医師の診察。(親愛の情を込めてポン太先生と呼ぶ)
心電図を診ながら「うーん、低電位は低電位だけど、ここの所がねぇ…ちょっと変だよねぇ…」と渋い顔。
心筋梗塞がどうとかちょっと怖いことも呟かれて。
「医療センターに予約を取るので、心エコーと心電図の検査して来て下さい」と言われた。
「まぁ心配はないでしょう。様子を見ましょう」と言われるのを勝手に予測していた私はポカン。
(え…?そうなの??)の顔をしていたと思う。
4月初め、医療センターで心エコーと心電図検査。
サクサクと終わり、気分良く帰宅。
何の根拠も無いのに、多分大丈夫だろうと何故か思った。
4月中頃、診療所でポン太先生から検査結果を聞く。
「低電位はね、まあ心配ないですけどね、心エコーがね、ちょっとね」
検査報告書を差し出され異常個所を説明される。(病名を書くと少々重いので暈す)
「僕は専門ではないのでアレですけど、治療となると外科手術になると思います。まあ、この感じだと経過観察かなあとも思いますけど」
心臓の外科手術⁈
多分大丈夫と無意識に思っていたので、またもや頭の中は(ええっ?何それ??)。
「何処かかかりつけの病院があれば紹介状書きますけど」
想定外の展開に思考はおぼろげ。顔はもしかしたら目が点だったかも。
「かかりつけは特に無いですが…逆に先生に紹介して頂けると有難いです」
とやっと言うと、市内の総合病院を二つ挙げてくれた。
決めきれず、ご家族と相談されてもいいですしと言われ、持ち帰ることに。
それでも、手術の二文字が受け入れ難く
「経過観察かなということは、病院に行くのもちょっと様子を見てもいいということですか?」
とアホなことを言う私に
「いえ、それはダメ。ちゃんと行ってください」とポン太先生は呆れるように苦笑いをした。
本当ならその場で決断し紹介状を書いてもらえば良かったのだろう。
持ち帰った後、うだうだと迷う時間を過ごし、ゴールデンウィークも挟み、結局紹介状を書いてもらったのはその三週間後だった。
多分大丈夫なんだけどなあとの根拠の無い思い込みが行動を遅らせた。
しかし、それからが速い展開となる。
5月中旬の週末、ポン太先生に紹介状を書いていただく。
「心臓血管外科ですから」と改めて言われ、何とも言えない気分になる。
週明け早々、病院に予約の電話を入れる。
なかなか繋がらず、その日の夕方ようやく繋がると、翌日午前10時40分の予約が取れた。
当日、予約時間の30分遅れで診察室に呼ばれる。
担当医師はハキハキとした物言いで時に笑い声も交えながらで、こちらの気分も明るくなる。
10分程の問診を受けた後、「とりあえず、もう一度心エコーと心電図をとらせてください」と言われ、ハイハイと診察室を出る。
慣れたものと検査を終わらせ心臓血管外科に戻ろうとすると、心エコーの受付で採血と採尿をお願いしますと言われる。
検査場所を移動し、採血と採尿を済ませ、心臓血管外科に戻る。
その段階で担当医師が変わりますと言われ、しばらく待つ。
午後12時半を回っていた。
午後1時少し前、診察室に呼ばれる。
変わったという担当医師もハキハキと検査結果を知らせてくれる。(サンプラザ中野氏にちょっと似ているのでサンプラザ先生と呼ぶ)
その中で、やはり心エコーで同様に疾患が認められたこと、その影響が体内で生じているのが心配されること、なのでこの後MR検査とCT検査を行いたいことを流れる様に伝えられた。
「今日はこの後、お時間ありますか?CTまでやると5時近くになりますが」と言われ
思わず「えっ!5時ですかあ⁉」と素っ頓狂な声を上げてしまった。
まるで検査の重要性を理解していないような私にすかさずサンプラザ先生は
「最悪の場合はこのまま即入院ということもあり得るんですよ。手術の可能性もあるし。そうなればご主人様にも一緒に話を聞いてもらわなければなりません」
と厳しい目で語気を強めた。
そうだったんだ… 最悪の場合、そういうこともあり得るのか…
ここに来て、ようやく我が身に起きていることに不安を抱くおバカな自分。
最悪の状況も覚悟し、MR検査とCT検査を受ける。その他にもいくつか。
緊急扱いとなったのか、意外なほどスピーディーに検査が進む。
広い病院内をあちらこちらへと歩いて回った。
5時になると言われたが4時には全ての検査を終えることが出来た。
再度、心臓血管外科に戻る。
あとは診断を待つだけだが、血液検査の結果が出るのが1時間ほどかかるので、それからの診察となると言われた。
待っている間、もし即入院となった場合のあれこれを考えたり、手術の話を一緒に聞いてもらう夫のスケジュールを確認したりした。
自分の病状を初めてしっかりと認識した時間だったかもしれない。
1時間より早く診察室に呼ばれる。
サンプラザ先生の声色がいくらか和やかになっている。
「MRとCTの結果ですが、心配されたものはありませんでした」
検査報告書には検査の詳しい所見と、脳血管障害無し、塞栓症無しの文字が記されていた。
心底ホッとして「わ~良かったです!」とまたまた素っ頓狂な声を上げてしまったが、サンプラザ先生の目はにこやかだった。
ただ、心臓の疾患が消えたわけではないので、その部分を手術するのか経過観察とするのかは少し考えて次回の診察でお話しますと言われた。
診察を終え、会計を待っている間、フロアの大画面テレビでは大相撲中継をやっていて、ふっと人心地つく。
朝出る時はこんな事になろうとは思ってもいなかったなぁと可笑しくもあり。
会計を済ませると5時を少し過ぎていた。
長い長い一日だった。
帰宅し、夫に事の顛末を一気に話す。
MRとCTを撮りたいと言われた時に「(終わるの)5時ですかあ⁉」と叫んだ私の様子、目に見えるようだと言った夫。
「俺だったら是非検査して欲しいって思うけどな」
不安が解消されず、結局様子を見ましょうでは納得できないだろう、と。
そうなのだ。
紹介状無しでは診てもらえない病院に、わざわざ紹介状を書いて貰い精密検査をしに行ったのだ。
きちんと検査せずにどうするという話だろう。
己の病状を心配する前に帰りの時間を心配するなど、つくづくおバカである。
サンプラザ先生にきつく釘を刺されるのも当然だった。
……………
今さらどの口が言うと呆れられそうだが
改めて強く思うのは、これだけ綿密な検査をしてもらえたことは本当にラッキーだったということ。
そして、緊急な問題が見つからなかったのもラッキー。
また、もし見つかったとしても、自覚症状が全く無い中で見つけられたのだから、それもラッキーと言うべきだろうし、即座に対応出来ただろうこともラッキーとなっただろう。
結果として、頭部のMR検査や冠動脈・心筋のCT検査で今のところ異常無しのお墨付きをいただけたのも、何気にラッキーである。
診療所の大先生やポン太先生にも感謝したい。
長年「様子を見ましょう」と放置してきた症状にきちんと向き合うことを勧めてくれたおかげで、隠れていた疾患が見つかった。
その疾患について精密検査を受けるよう背中を押してくれた。
それがなければ、自分はこの先もずっと様子を見続けていただろう。
そうしている間に突然何かが起こったかもしれない。
サンプラザ先生にも感謝である。
状況を理解出来ていないバカで失礼な患者を見捨てず、しっかりと調べてくれた。
そして最後には「安心」を手渡してくれた。
次回の診察日。
仮に手術と判断されたら「お願いします」とすっきり応えようと思っている。