すっとんきょうでゴメンナサイ

風の吹くまま気の向くまま

よしもとばななさん「スナックちどり」~人生への静かな肯定感

 

久しぶりによしもとばななさんの本を図書館で借りて読みました。

 

「スナックちどり」(2013年)

f:id:komakusa22:20200701203131p:plain

 

主人公の"さっちゃん”こと「私」は40歳を目前にして離婚したばかり。いとこで幼なじみの“ちどり”は幼い頃に両親が離婚した後、親代わりに育ててくれた祖父母を相次いで亡くし、ひとりぼっちになってしまったばかり。そんな寂しさを抱える二人がイギリス西端の街を旅する五日間の物語です。

物語の軸に特別何か大きな出来事があるわけじゃない。
ハラハラするようなスリリングな展開があるわけでもない。
(実はあると言えばあるのだけど、物語全体を見れば軸や展開を動かすものとは自分には思えなかったので)
“私”と“ちどり”が送ったそれぞれの人生と今抱えるそれぞれの寂しさ。
ひと休みの旅の中で言葉を交わし、心を交わし、寄り添う二人が
少し強くなってまた日常へと戻っていく。
それを淡々と、しかしゆっくりと丁寧に描く五日間です。

ばななさんはこの本についてのインタビューで

「人間は誰しも自分で思っているほど一貫性のある人生を送っているわけじゃないと思うんです。いったんレールから外れたからおしまい、と思う必要はなくて、ひと休みしてまた始めればいい、とどこかで伝えたかったのかもしれません。
日常が続いて、そのこと自体が一番大事なことなんだ、と。それが小説を読んでくれた方に伝われば、とてもうれしいです。私自身仕事と子育ての両立も大変ですし、両親を亡くして精神的にしんどい思いもしましたけれど、やっぱり作家としてもひとりの人間としても、人生に対して肯定的でいたいですね。」

と仰っています。

 

一時期、よしもとばななさんにはまってあれこれ読んでいました。
特に「王国」シリーズは大好きで、主人公に激しいシンパシーを感じたものです。
これは自分のことかと思うほど、主人公の言葉に不思議なほど実感し、納得し
自分でも嫌で隠している内面が赤裸々にされると胸が痛み
だけどその後で、うんうん、そうだよねと主人公を励ましてあげたくなりました。

「王国 その3 ひみつの花園(2010年)の後書きでばななさんは書かれています。

f:id:komakusa22:20200701203302j:plain

小さなテーマは「はずれものでもなんとか生きる場所はある」というもので、大きなテーマは「外側の自然と、そして自分の中の自然とつきあうということ」であった。

くせがあるし、夢見がちだし、興味のない人には全く興味のないことをくどくどとくりかえし書いている小説だが、この世界にいると自分でも少し気持ちがゆるんだりなごんだりペースを落とせたりするような気がする

 

よしもとばななさんの書かれる小説には実に様々なキャラクターが登場します。
そのどれもに、ばななさんの温かい眼差しが向けられていることを感じます。
「はずれものでもなんとか生きる場所はある」
「レールから外れたからおしまいじゃなくて、ひと休みしてまた始めればいい」
物語の根底にいつも存在する得も言われぬ優しさに癒され、幸せな気持ちになります。
大変な時は緩んだり和んだりすればいい。そしてまた始めればいい。
どんな人でも人生を肯定的に生きられるんだということを伝えてくれるのです。

「この世界にいると自分でも少し気持ちがゆるんだりなごんだりペースを落とせたりするような気がする」
ってめちゃくちゃわかります。

そんなよしもとばななさんの世界が大好きです。

 

「スナックちどり」の一場面です。

「いいんだよ、おばさんになって、おばあさんになって、ただそれでいいんだよ、きっと。」
ちどりは言った。
「それがなにより最高なんだ。一回きりの、この上ないことだよ。」
私はうなずいて、ほんとうにそうだねと微笑んだ。
昔はそう思わなかった。新しいもの、始まるものが好きだった。古びないもの、キラキラとしたもの、暗くないものが。
でも今はなにもかもが大切な旅の景色のひとつになっていた。
新しい古い、良い悪い、どんどんそんな区別がなくなっていき、自分の芯になるものだけが残る。あれ?自分しかいない、淋しい、そう思って周りを見たら、広い海だか川だかには同じような船がたくさん。
そういう感じがいちばんいいな、と思った。

 

なにもかもが大切な旅の景色。
そう思えたら人生は面白く、且つ趣深いものとなるでしょうね。

いろいろなものが削ぎ落とされ自分の芯だけで生きていけたら
それはもうどんなに清々しいことかと。

そんなことを考えてワクワクするのです。

 

 

にほんブログ村 シニア日記ブログ 60歳代へ
にほんブログ村

ポチ頂けると嬉しいです(^^)/

 

PVアクセスランキング にほんブログ村