すっとんきょうでゴメンナサイ

風の吹くまま気の向くまま

親思う心にまさる親心

 
母が先月の初めに亡くなりました。
今週末には四十九日の法要です。
 
 
最後に会えたのは亡くなる一ヶ月ほど前。
いよいよ心臓の動きが悪くなり
トイレと食堂に行く以外はほとんどベッドに寝て過ごすようになっていました。
食いしん坊の母が喜ぶだろうと買って行った甘いものも
少しだけ口に入れ「もういいわ」と食べませんでした。
そんな様子に、もうあまり長くないのかなと思いました。
 
確かにそう思ったのに
まさかこんなに呆気なく亡くなるとは
心の中で本当には思っていなかったのです。
 
ずっと傍にいた父もそうだったようです。
亡くなる日の朝、私に電話をかけてきて
「しんどいしんどい言ってオレをこき使う。ワシの方がしんどいわ」と愚痴りました。
食事やトイレの介助に振り回されていたようです。
遠慮しいの父のSOSに「明日行くから」と電話を切ったのですが
その二時間後くらいでしょうか。
「心停止や。今、救急車で行った」
 
すぐには理解できませんでした。
その後、急を聞いて病院に駆けつけた兄が「あかんかったわ」と。
 
 
朝、私に電話をかけた後、父は母の部屋であれこれ世話をしたようです。
トイレ介助の後、ベッドにうまく上がれない母の背中や腰を持ち上げて
「ほれ、力を入れて踏ん張らんかい」と励まし
母も「うーん」と声を出して上がろうとしたのですが
何度目かの時、突然、ズルズルと腰くだけのように後ろ向きに父の上に乗っかり
そのまま母は全く動かなくなったそうです。
それでも父は、まさか母が息をしていないとは思わないから
「重い!オレの足が挟まって痛いわい!」と母に怒るのですが
結局、どうしても動かない母に困ってナースコールを押したそうです。
そして救急搬送。
 
後で父は「あの時にもうあかんかったんやろな」と言いました。
最期のその瞬間、母は父に抱かれて逝ったのです。
 
もしかしたらいつもの様に「しんどいわ~」と思いながら
ちょっと目を閉じて休むつもりで母は亡くなったのかもしれません。
母自身、死ぬとは思ってなかったのかも。
そういうところ、なんだかすごく母らしく思えて
ちょっと笑っちゃうような。
それに唐突に心臓を止めて皆を驚かせるあたりも母っぽい。
 
いずれにしても最期まで父に守られて
「幸せな人生だよ」
皆でそう言うと、父も少しホッとしたようでした。
 
 
兄の「あかんかったわ」の連絡を受け
その日の夕方には母の元へ行けました。
 
母は寝ているようでした。不思議なくらいいつもの寝顔。
顔に触れるとまだ柔らかでした。
白髪の髪の毛もまだ血が通っているようにしなやかで。
数日前に転んだとかで左目の下に青タン。
そんなところも最後まで母らしい。
顔をしばらく撫でていました。
いつまでもこうしていたいと思いました。
 
通夜の夜、夫と二人、母の傍で過ごしました。
お線香の火を絶やさないように。
気がつくと、ようやく母と二人きりになりました。
柩の中の母の顔をじっと見つめながら
ふと「今まで育ててくれてありがとうね」と口に出した時
初めて涙が溢れて、少し泣けました。
 
 
身も心も尽くし私を育てあげてくれた母の慈愛。
生まれてから今まで、ずっと変わらず愛し続けてくれた。
心から有難いと思いました。
そんなことは親以外誰もしてくれない。
 
今さらです。
母が生きている時にそれを伝えるべきでした。
 
 
告別式の前に、斎場の人に母とのエピソードなどを訊かれました。
式の最中のナレーションにそれらを盛り込むためです。
母のことを話そうとした時
急に喉の奥が詰まり、言葉が出なくなりました。
代わりに涙が次から次へと溢れ、鼻水も大洪水で
人目もはばからず泣きました。
隣にいた兄は妹の突然の号泣に驚いたようです。
出棺の際にもしばし大号泣。
 
ついさっきまで生きていたような母との別れは
意識せず家族とワイワイ話していれば
そういうものとして受け入れ理解するみたいなのだけど
ふっと集中してそこに向き合うと
思い出したようにたまらなく悲しくなるのでした。
 
 
その後、父とも話したのですが
心臓が悪く晩年は本当にしんどそうな母だったけど
今はそれも楽になっているだろうし
そうは言っても86歳まで長生きしたし
だから、母が亡くなったこと
悲しいというのはあまり無いねって。
 
ただ、寂しいね・・って。
母の声を聞けないこと
母と話せないこと
母の笑い声が聞けないこと
母の笑った顔が見られないこと
母にもう会えないことが寂しい。
 
その寂しさに慣れなければいけません。
 
母の方はと言えば
母らしく、既に前向きにあの世とやらに行って
母のお父さんお母さん兄さん姉さんたちに囲まれ
末っ子として好き放題しながら甘やかされている気がします
 
 
 
先日の記事のコメント内で
「親思う心にまさる親心」との言葉をいただきました。
母のことを思わずにはいられませんでした。
まさに今、つくづく思い知っております。
 
あまりにもプライベートな内容で書くことにためらいがありました。
ですが、
母の亡くなった日のことを残しておきたいという気持ちで
自らの備忘録として思いつくまま書きました。
長々と失礼しました。