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『プロフェッショナル仕事の流儀 宮﨑駿スペシャル』~宮さんとパクさん


先日のNHK
『プロフェッショナル仕事の流儀 宮﨑駿スペシャル』


サブタイトルはジブリと宮﨑駿の2399日映画はこうして生まれた」


一度は引退した宮﨑駿監督が戻って来て描きたかったものとは。

新作君たちはどう生きるか完成までの日々。


ジブリファンである自分にとって、それはまさにどうしたって興味をそそられる内容。

そして確かに、宮﨑監督に焦点を当てた新作完成までの日々が順を追って描かれているのだが

しかし、それだけではない

「宮さん」こと宮﨑駿氏と、「パクさん」こと高畑勲氏との、あまりにも深い関係性を知ることとなった。


……………


君たちはどう生きるか

2017年5月ひりひりするような日々が始まる。


宮﨑アニメのキャラクターには必ずと言っていいほど実在のモデルがいて

ちなみに、新作の主人公の少年、眞人のモデルは宮﨑さん自身

サギ男はプロデューサーの鈴木敏夫さんだそうだ。


2013年9月に引退を発表した宮﨑さんだが

引退から僅か3年 何食わぬ顔で企画書を書き上げる。


体がもたないと言ったのに、またやるのは何故?

「忘れるからでしょ」(宮﨑さん)

「でも作る人ってそうだよね。それも才能のひとつ」と鈴木プロデューサー。

(そう言えば、拓郎も“やめるやめる詐欺”を幾度繰り返したことか…)


絵コンテに苦しむその最中、2018年4月高畑勲氏が亡くなる。


ジブリを共に立ち上げ、競い合うように映画を作り続けて来た宮﨑さんにとって無二の存在。

そして、ただ一人恐れた映画監督。


凄まじいまでの理想を具現化する力。

自分の信念を決して曲げず、妥協、迎合一切無し。

間に合わせる為なら何をも厭わない宮﨑さんとはまるで違った。


……………


「宮さんってずっと高畑さんに対して片思いの人だったよね」(鈴木プロデューサー)


高畑さんは宮﨑さんに全てを教えてくれた人だった。


高畑さんと出会う前、宮﨑さんはまるで別人だったという。

新作の主人公のように影があり内気な少年。

人の目に合わせて生きていて、壮烈な鬱にも陥った。

母に心配をかけまいとふるまうサツキ(『となりのトトロ』)の姿は少年時代の宮崎さん。


そんな宮﨑さんを変えたのは高畑さんだった。

東映動画の5歳年上の先輩監督。

高畑さんは無茶な要求を次々と繰り出し

駆け出しのアニメーターだった宮﨑さんはそれに食らいつく度、変わっていった。


「宮﨑さんにとって高畑さんとはどういう人でしょう?」という質問に

何か言いたげに、ニヤリとしながら「パクさんです」とだけ答える宮﨑さん。

「では高畑さんは?」と尋ねられ

「色んな作品みたいですね。色々作ってもらいたいです。まだ何か見せてくれないものがあってね、それを見せてくれるんじゃないかなって期待してますね」と答えた高畑さん。

それを聞き、照れて、でもすごく嬉しそうに「ほんと?」と言った宮﨑さん。

高畑さんはそんな時も至ってクール。


確かに片思いの少年のよう。

敬愛の情が募り、高畑さんの筆跡を真似るほどだったそうだ。


けれど、行き過ぎた片思いは二人の関係を軋ませていく。


イデアを出しても受け入れてくれない高畑さんに憎しみが沸いた。

高畑さんと別れ、自分も監督になった宮崎さん。

高畑さんと出来なかったことを描きまくった。

しかし、途中で力尽き絵コンテが描けなくなる。

その時助けてくれたのは高畑さんだった。


再び高畑さんの元に戻る宮﨑さんだったが

高畑さんは別のアニメーターに信頼を置くようになっていて

宮﨑さんは「必要なのは俺じゃないのか」と頭にくる。


「ものすごい嫉妬なのよ」(鈴木プロデューサー)


宮﨑さんが『風の谷のナウシカ』を作った時、高畑さんはナウシカに「30点」をつける。

そこでまた怒り狂う宮﨑さん。

高畑さんは言う。

「ほとんどみな100点と言ってるんだから、それを30点と言うことで、宮さんはあれを30点として100点とするぐらいのものが作れるんじゃないかと言いたかった」


宮﨑さんが高畑さんに褒めてもらいたくて作り続けた映画たちは、必ずと言っていいほど旅立ちのシーンから始まる。

それは高畑さんと初めて一緒に作った映画の様に。


宮﨑さんが引退を宣言した時、高畑さんは大まじめに怒った。

「映画監督に引退なんかないよ」

引退撤回、そこへと駆り立てたのは高畑さんだった。


あるインタビューで夢を見ますかと尋ねられた宮﨑さん。

その時、「僕の夢は一つしかない。いつもパクさんが出てくる」と答えた。

常に目標であり、超えるべき存在だったし、いつもつきまとってる。


「僕等は愛憎半ばしてますから」(宮﨑さん)


2018年5月高畑さんとの別れの席で弔辞を読みながら宮﨑さんは泣いた。


僕はパクさんと夢中に語り明かした
ありとあらゆることを
なかでも作品について
僕らは仕事に満足していなかった
もっと遠くへ もっと深く
誇りを持てる仕事がしたかった
何を作ればいいのか
どうやって


パクさん
僕らは精一杯あのとき生きたんだ
膝を折らなかったパクさんの姿勢は僕らのものだったんだ
ありがとう パクさん
55年前にあの雨上がりのバス停で
声をかけてくれたパクさんのことを忘れない


……………


高畑さんが亡くなってから、その後、絵コンテが全く進まなくなる宮﨑さんだったが
苦しみながら、やがて大伯父のキャラクターが生まれる。

大伯父のモデルはパクさん。

主人公に立ちはだかる男として映画の中に現れる。


「高畑さんが自分にとって何者だったかをやりたいんでしょ」(鈴木プロデューサー)


大伯父を描こうとしてパクさんはいったいどうだったのかを考え続ける宮﨑さん。

パクさんと言葉を交わしながら。


高畑さんを超える為に、宮﨑さんは主人公の少年眞人として再び旅に出る。

行く手にはジブリのような塔があり、そこに大伯父として高畑さんはいる。

それは高畑さんに導かれるようにこの世界に分け入り

弱さを脱ぎ捨てて行った宮﨑さんの人生そのもの。

宮﨑さんはこれが最後の旅になると言う。


……………


狂気の境界線に行くんですよ
狂気の境界線に立たないと映画って面白くなんないんですよ


狂気と正気の境界線を彷徨う宮﨑さん。


こういうときにどうしたらいいんだろうねって話をする相手としてはパクさんが一番いいな
そっちはどうですか?って話を聞きたい
「面白くないよ」「そうですかやっぱり」って


パクさんの教えてくれた映画が宮﨑さんを繋ぎとめる。


……………


(少々ネタバレになって申し訳ありませんがm(__)m)

今夏、ロードショーで観た時にはここまでの宮﨑監督の思いは分かるはずもなく

ただ、今思うのは、宮﨑さんが執着した大伯父最後の台詞


「自分の時に戻れ!」


それは大伯父、つまり高畑さんと決別せんとする宮﨑さんご自身への言葉だったのだろうかということです。



komakusa22.hatenablog.com



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